福井直昭学長 対談

特別対談3― 第105回全国高等学校野球選手権大会優勝記念
福井直睦(慶應義塾高校)× 福井直昭 (本学学長)
特別メッセージ:須江 航監督(仙台育英学園高校)

幼稚舎(小学校)で書いた夢を叶える

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▲歓喜の瞬間を迎え、喜びを爆発させアルプス席に走り出す慶應ナイン。右から二人目が直睦選手(8月23日)

直昭 幼稚舎の頃に書いた「塾高で甲子園に出て優勝する」っていう作文が出てきたという記事を読みました。

直睦 全く覚えてなかったけど、3回戦の頃、当時の同級生が教えてくれました。

直昭 月並みな表現だけど、幼い頃の夢を叶えたって素晴らしい。覚えてなかったとはいえ(笑)。他には、「侍ジャパンに入って、取材を受けたい」とあるけど、もう取材はたくさん受けてるよね、たとえば今とか(笑)。

直睦 アハハ。でも、幼稚舎の時に慶應のユニホームを着て、こうやってまた高校で同じユニホームを着て日本一になれたのは、本当に幸せです。

直昭 幼稚舎と言えば、決勝の九回表、ベンチ入り唯一の幼稚舎からの友人、清原勝児選手に代打で打席を託したね。私が選ぶ隠れた名シーン(笑)。あの日既に3安打打ってノッてたから、もう1本打ちたいって思わなかった?

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直睦 いや、本当にあそこは勝児なら任せられる、勝児に打ってもらいたいなと思いました。

直昭 まして勝児選手とは、世田谷西リトルシニア(中学硬式野球チームの名門)でも一緒だったもんね。

直睦 打席に向かう時の声掛けも含め、勝児には勇気づけられました。

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▲作文

“言葉の魔術師”仙台育英・須江航監督からのメッセージ

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直昭 直睦君に限らず、慶應の選手たちには、自分たちの野球を自分たちで創り上げ、対戦相手をリスペクトしながら全力で戦い抜こうという強い意志が感じられました。また、惜しくも大会連覇はならなかったものの、同じく自主性・スポーツマンシップを重んじる王者 仙台育英高が対戦相手だったからこそ、慶應は十二分に力を発揮し、高校野球の楽しさも示してくれたのではないでしょうか。優勝インタビューに答える慶應の選手たちの言葉に、仙台育英・須江監督だけでなく、選手全員がベンチで立ちながら拍手を送る場面は忘れられません。野球とは、やはり対戦相手に恵まれてこそ、大きく成長できる競技なのでしょう。ここで、直睦君に素晴らしいプレゼントがあります。なんとその仙台育英の須江航監督が、奥様(絵菜夫人)が武蔵野の卒業生というご縁もあり、直睦君にメッセージを下さいました。(メッセージを見せて)どうですか?

直睦 ビックリしました。お忙しい中、有難いメッセージをいただき、誠に光栄です。春夏甲子園での仙台育英さんとの試合は、自分の野球人生において一番記憶に残る試合になりました。しかし、この瞬間に決して満足せず、大学でも仙台育英の選手と共に頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。

直昭 須江監督からは、併せて武蔵野の学生に対してもメッセージを頂きました。心より御礼申し上げます。今回の準優勝時のコメントとしてフォーカスされた「人生は敗者復活戦」というワードですが、監督は実は従来からこの言葉を著書等でたびたび使われています。僭越ながら私も常々「本番で成功した喜びよりも、むしろ失敗した悔しさを味わうことこそ、成長の糧となるだけでなく、人格を重層構造にし、人生をより豊かなものにする」ということを話しています。新時代のリーダー像を体現する須江監督の言葉には、いつもオーケストラのようなパワーが宿り、様々な音色が響き、演奏者・教育者・経営者としての私の心を強く共鳴させて下さいます。そして余計なことかもしれませんが、奥様も大変聡明な方で、さすが須江監督、さすが武蔵野(笑)と思っております。これからも応援させていただきます。

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▲仙台育英・須江 航監督と夏の大会前の練習試合で。絵菜夫人が武蔵野の卒業生ということで、監督から声を掛けて下さる。(7月3日)

仙台育英・須江 航監督からの特別メッセージ

福井直睦くんへ

春の甲子園の激戦に続き、夏の甲子園しかも決勝戦の大観衆の中での対戦は、私達にとっても人生の中の素敵な思い出になりました。本校の生徒たちは東京六大学に進学するなど、リーグ戦や大会においてお手合わせいただくことになります。良きライバル、友になり生涯の付き合いにしてもらえたら嬉しい限りです。ご縁いただきましたので、これからはファンとしても応援しています。夏の甲子園17打数8安打3打点。ナイスバッティングでした。おめでとう。

 

武蔵野音楽大学の学生の皆さまへ

仙台育英学園高等学校硬式野球部監督の須江航です。

妻が御校の卒業生であり、また福井学長の御親戚の直睦くんとのご縁で今回メッセージを送らせていただきました。

喜びや感動、悲しみや失望-―夢や目標、叶えたいことがあるとそんな感情が湧き起こり、人生に彩りを与えてくれます。

私にとってそれは、野球や1人1人の生徒の成長ですが、皆さんには声や奏でる音色、音楽なのだと思います。私もですが皆さんも、そんな素敵なことに出会えて幸せですね。夢は近付くと目標に変わります。自分の個性と感性を大切に、豊かな心を育む4年間にして下さい。

 

直昭 さあ甲子園で優勝した今、作文を書くとしたら、将来の夢は何かな?

直睦 大学で野球をしっかりやって、それからですね。でも、どんな形であれ“幸せ”を掴みたいですね。

直昭 「自分なりの幸せを見つけ、努力する」森林イズムですね。では、最後に、同世代の武蔵野の大学生、高校生にメッセージを。

直睦 自分が好きで始めたことを続けて、成長する。そんな機会を与えてくれる環境自体にしっかり感謝した上で、これからもお互い好きなことに対する力を伸ばしていきましょう。

直昭 どんな時代であっても、人間は、人間が全身全霊で物事に打ち込む姿に惹かれるんだよね。ありがとうございました。

(2023年12月発行 MUSASHINO for TOMORROW Vol.144 掲載予定)