特別対談3― 鏡優翔(パリ五輪レスリング女子76kg級金メダリスト)× 福井直昭 (本学学長)
有言実行の意味

福井 「五輪後の取材でよく『4年後は?』って聞かれるけど、『そんなに簡単に言わないで!』って思っちゃう」というお話は、おっしゃる通りだと思います。
鏡 期待してもらえるのはすごく有難いのですが、パリに出ると決めてから必死で積み上げてきた結果が、今回の金メダル。「じゃ、次は2連覇ですね」と言われると、「オリンピック連覇を目標にしたわけではない。今、この金メダルを見てよ!」と思ってしまいます。仮に4年後を狙うとしたら、みんな私を基準にやってくると思うので、今まで以上の、もっともっと強い覚悟が必要なんです。それが定まらない限り、容易に“次”を口にすることはできません。やっぱり私は“有言実行”をしたいタイプなので、簡単に言いたくない。
福井 発言したことには責任を持ち、必ず実践すること。それが“ 有言実行”ですものね。それが、たとえ自分を鼓舞する意味であったとしても。
鏡 差し上げた黄色いTシャツにも、オリンピック前に作ったのに「パリオリンピックゴールドメダリスト」って書いててね(笑)。
福井 そうそう!有言実行Tシャツ。ついでに、なぜか隅っこに藤波朱理選手のサインも入ってるという笑)。
鏡 そう、私がサインしてる時「じゃあ(藤波)朱理も、こっそりここらへんに書いたら?」って(笑)。
福井 もうバラエティを全制覇したんじゃないかっていうくらいの連日にわたるテレビ出演ですが、大体、藤波選手と共演してますよね?
鏡 会社の広報を通してオファーが来るんですが、その依頼文の中に大概「藤波選手と」って(笑)。コンビ性がいいんですかね?
福井 最高ですよ!番組で藤波選手が「自分は減量があるほうなので、試合前はあんまりいっぱいは食べられないんですけど、鏡先輩はホントに容赦なくいっぱい食べます」と不満を告白して、鏡さんが目の前で見せつけるようにスイーツやラーメンを食べるVTRが公開されてましたが(笑)
鏡 確かに、朱理は私と3cmしか違わないのに20㎏以上階級が低いので減量が大変なんですが、「優翔さん普通に食べて下さい!」みたいに言われたので遠慮しないで食べてて動画を撮らせてたら、それをテレビで流されて「見せつけるように食べた」って言われちゃって(笑)。
福井 その真相の方が、もっと面白い(笑)。先に金メダルを獲った藤波選手が、同じ部屋で浮かれてたっていうのは?
鏡 なんかもう、めっちゃ浮かれてるんですよ(笑)。でも、お互いに本当に性格が分かった上での行動なんです。なので、私も一応「おい!」とか言いながら(笑)、朱理があえていつも通りにしてくれてるなと。
福井 でも鏡さんの試合の当日は、一緒に焼きたてパンとコーヒーの朝食とるはずが、約束の場所にいなかったという(笑)。
鏡 それも朱理が言いだした毎朝のルーティンなんですよ(笑)。朱理の試合前もやりました。それが、いないし連絡来ないなと思ったら、まさかの爆睡でしたね(笑)。
福井 一流アスリート同士の友情が感動的でもあり、しかも面白い!
目標から逆算して日々の練習を
福井 最後に、同年代の武蔵野の学生に対して、メッセージをお願いします。
鏡 オリンピック金メダルを目指したから偉いとか、すごいとかそういうことではない。例えばレスリングで言ったら、オリンピックで優勝したいっていうことも、小さな大会でも優勝したいってことも、また1勝したい、あるいは1ポイントでも取りたいってことも、目標を掲げるという意味では全部一緒だと思います。目標の大小ではなく、今自分が掲げた目標に対して、叶えようと努力することが大切だと思っています。
福井 冒頭の「目標から逆算して日々の練習に落とし込む」に回帰しますね。達成するまでの道筋を明確にすることで、やる気が向上し、ブレない行動ができるようになると思います。
鏡 あまり音楽は詳しくないですけど、例えば「今日はここまでは1回も間違えずに弾ききるぞ」とか、そういう本当に細かな目標でいいので、それに向かってやる。それが達成できようができなかろうが、それに向かって頑張った努力って絶対無駄じゃないんですよ。何かに必ず活きるので。
福井 学生たちには、鏡さんの言葉を導きの光として、勇気をもって道を歩んでほしいと思います。長時間、ありがとうございました!
鏡 こちらこそありがとうございました!

「大学時代は図書館にはほとんど行かなかったです(笑)」