福井直昭学長 対談

特別対談1― 第105回全国高等学校野球選手権大会優勝記念
福井直睦(慶應義塾高校)× 福井直昭 (本学学長)
特別メッセージ:須江 航監督(仙台育英学園高校)

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「エンジョイ・べースボール」を体現した苦悩からの脱出

 2023年夏、107年ぶりの甲子園優勝を成し遂げ、大フィーバーを巻き起こした慶應義塾高校。今回の学長対談には、その慶應高校でサードを守った福井学長の従甥(いとこおい)福井直睦選手をお迎えしました。決勝・仙台育英戦で3安打猛打賞を記録するなど、チーム最高打率の好成績をあげ全国制覇に大きく貢献した直睦選手。自身も幼稚舎から慶應で学んだ福井学長との対談内容は、“青春って密” “人生は敗者復活戦”等、その言動が常に人々の心を掴んでやまない仙台育英・須江航監督が特別にメッセージをお寄せ下さったことで、大変贅沢なものとなりました。同世代の学生・生徒はもとより、指導する先生方にも重要な示唆を与えるスペシャルトークを、存分にお楽しみ下さい。(2023年9月11日実施)

敗戦から生まれた決勝の一打

直昭 では、「平仮名でたった1文字違い同士の対談」を始めます(笑)。決勝戦から半月経ちましたが、改めまして優勝おめでとう!

直睦 ありがとうございます。

直昭 早速ですが、今回の甲子園で、個人的に一番印象に残ったシーンから聞こうかな。

直睦 それは、やはり決勝(仙台育英戦)でのツーベースヒットですかね。

直昭 あれは実に大きかった。五回表、リードはわずか1点。あの一打が、相手に傾きかけた流れを断ち切ったよね。

直睦 春は全く打てなかった高橋煌稀投手から打てただけに、自身の成長を感じることができました。

直昭 あの場面、どんな心境で打席に立ったの?

直睦「低めの変化球には手を出さない。あとは楽しむだけ」ですね。

直昭 塁上での少し照れながらのガッツポーズは、学生たちにも好感度高かったよ(笑)。決勝の相手、昨年の覇者 仙台育英とは、春のセンバツ以来の再戦でした。

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▲決勝の仙台育英戦。一挙5得点のビッグイニングを導くタイムリーツーベースを放ち二塁ベース上でガッツポーズ(8月23日)

直睦 正直、春は、小さい頃から夢見た憧れの舞台に立てただけで満足してしまって。もちろん勝とうと思って試合に臨んだのですが、(初戦という事もあり)想像以上に大きく感じた甲子園球場や、王者 仙台育英の雰囲気・迫力に押し負けてしまいました。

直昭 マウンドの湯田・高橋両投手も大きく見えたっていうのは本当?

直睦 はい、なんか190㎝くらいに見えて、オーラやばい、みたいな。自分自身、手も足も出なかったので、負けた時はもう本当に悔しくて。

直昭 あの試合、確かに四番で結果は出なかったけど、土壇場の延長十回裏1死満塁、サヨナラのランナーを刺した(当時守っていた)レフトからのバックホームはすごかった。滅多にお目にかかれない「レフトゴロ」のワードがトレンド入りしたもんね。以前、野球を始めたきっかけを聞いていたものだから、余計感動したんだよ。

直睦 小3の時、自分でも性格上、相手からボールを奪い取るようなラグビーやサッカーはあまり向いてないかなと感じていたところ、幼馴染から「野球やってみない?」と誘われたんです。その時、幼稚舎(小学校)の担任の先生にも「肩が強いから、合ってるんじゃないか」と後押しを受けました。

直昭 そう、直前の十回表同じく満塁で凡退していただけに、昔から強肩だったって話をあの瞬間思い出してね、ジーンと・・・。

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▲父が書いてくれた帽子のつばの「報恩謝徳」の文字

直睦 表の大事な場面で打てなくて放心する中、父が大会前に帽子のつばに書いてくれた言葉――「報恩謝徳」が目に留まりました。その瞬間に、それまで「四番で結果を出さなければ」と自分しか見えていなかったことに気づき、「感謝の気持ちを忘れないように」と、裏の守備では気持ちが切り替えられました。

直昭「報恩謝徳」は仏教が由来の言葉だよね。仏教と言えば、武蔵野音大創立者の福井直秋氏、直睦君からすると高祖父、ひいひいお爺ちゃん、分かるよね?

直睦 もちろん、わかります。

直昭 実は最初は「蔵界(ぞうかい)」という名前で、富山の浄土真宗のお寺の子だったのは知ってる?

直睦 それは知らないです。

直昭 あの時代(1877年生まれ)に音楽家になろうと決心し、蔵界という名がどうも音楽家には合わないと悩んだ末、19歳の時「直秋」に改名したんだ。そして、後に「福井家の男子には『直』を付けなければいけない」っていう条例を定めたんだけど(笑)。それは冗談として、もし直秋氏が音楽家を志さなかったら、私もお坊さんだったかもだし、直睦君も野球やってなかったかもね。やっていたとしても、サラサラヘアじゃなくて、それこそ文字通り坊主頭(笑)。

直睦 アハハ。

直昭 話を戻すけど、残念ながら当時は仙台育英が一枚上で、直睦君のビッグプレーの後、次打者が君の真ん前に落ちるサヨナラ安打を放ちました。

直睦 悔しかったけど、でもすぐに「今度こそ仙台育英の投手陣を打ち倒そう」っていう目標を立てて、そこから半年間、常に彼らを意識して練習しました。あの敗戦の経験がなかったら、甲子園にも多分戻ってきてないと思います。

直昭 敗戦直後、「夏、絶対に勝ちます」ってLINEくれたもんね。しかし実際、激戦の神奈川予選を制し再び甲子園に戻ってきて、今度は決勝で仙台育英と激突したのだから、それだけでも奇跡的です。

(特別対談2につづく)

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▲甲子園期間中のオフの日も志願して練習した。3回戦(対広陵)でのバッティング(8月16日)
ペーター・ヤブロンスキー
福井 直睦

(慶應義塾高等学校3年)

2005年東京生まれ。180㎝、80㎏。幼稚舎から慶應義塾で学ぶ。四番レフトで出場した2023年春のセンバツ初戦では仙台育英に敗れるも、延長十回の1死満塁の場面で、持ち前の強肩を生かし本塁封殺のレフトゴロで観衆を沸かせる。雪辱に燃えサードで再臨した夏の甲子園では、決勝・仙台育英戦で貴重な追加点となる適時打を含む3安打猛打賞を記録するなど、全5試合で安打を放ちチーム最高打率.471の好成績で、107年ぶりの全国制覇に大きく貢献。「ベースボールチャンネル」ベストナインに三塁手部門で選出。

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須江 航

(仙台育英学園高等学校 硬式野球部監督)

1983年埼玉県生まれ。仙台育英学園高等学校・八戸大学卒。2014年仙台秀光中等教育学校野球部監督として「第36回全国中学校軟式野球大会」で優勝。2022年仙台育英学園高等学校硬式野球部監督として「第104回全国高等学校野球選手権大会」において優勝、東北勢初の全国制覇に導いた(中学、高校ともに日本一に導いた史上初の監督)。また、2連覇を狙った第105回大会でも2年連続の決勝戦まで進出し準優勝を飾った。また第104回大会の優勝インタビューで、コロナ禍の中の高校生たちの思いを代弁した「青春ってすごく密なんです」という言葉は、2022年「新語・流行語大賞」の選考委員特別賞を受賞。