六つ折三味線

1887年(明治20年) 日 本  全長 96cm
六つ折三味線

風呂敷や扇子、着物などに見られるように、より小さく折りたたんで収納する、あるいは持ち運ぶというという手法は、私たち日本人が古くから得意とし大切にしてきたものである。自らの足でさえも折りたたむ正座の国日本では、屏風や掛け軸のような絵画においても、折りたたみ式が主流である。今回はこうした日本の「折りたたみ文化」が生んだユニークな三味線を紹介する。

元来、初期のころの三味線は折りたたみ式ではなかったが、楽器の日本的な完成に伴って、次第に携帯の利便性を考えて棹が折りたためるタイプが誕生した。はじめは棹を二分割する「二(ふた)つ折(おり)」が登場し、後に現代のように、棹を三つに分割できる「三(み)つ折(おり)」が一般的となった。写真の楽器は、「六(む)つ折(おり)」になるめずらしい種類である。分割した三味線は、胴がすっぽり入るほどの桐箱にコンパクトに収納することができる。

このように、棹の分割が可能となった背景としては、紅(こう)木(き)や紫檀など硬質な唐木を棹に用いるようになったことがあげられる。唐木を用いた楽器や工芸品は正倉院御物にも見られるが、当時はあくまでも上流階級に限られたものであった。しかし、江戸中期以降になると、需要の高まりとともに活発な輸入によって、唐木の製品が庶民の手にも届くようになったのである。また同時に、硬質な唐木に精巧な加工を施して、凹凸を組み合わせることによって接続する「ほぞ組み」の技術が進歩したことで、今日のような分割の棹が一般的となっていった。

写真の楽器は、三味線棹としては最高級の紅木材で、「朱入り」と呼ばれる手法が施されている。これは、木目の柔らかい部分と硬い部分をより均一にするために、漆をかける前に棹に何度も朱を塗り込んで磨く手法であるが、現代では手間がかかるため稀少である。(武蔵野音楽大学楽器博物館所蔵)