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弦楽四重奏用楽器セット(ヴァイオリン2本・ヴィオラ・チェロ)

弦楽四重奏用楽器セット(ヴァイオリン2本・ヴィオラ・チェロ)
宮本金八作 1934年 日本 長さ59cm・59cm(Vn)、65cm(Va)、123cm(Vc)

「宮本金八君。形を模倣すると永久にものの心を捉えることはできない。また、作るということにのみ執心すると決してものの真をつかむことはできない。これは私の創作に対する信条のひとつです。作るのではなく生み出してください」―大正12年、作曲家山田耕筰は宮本金八にこのような手紙を贈り、ヴァイオリン製作の真髄を極めるよう励ました。

宮本金八は、大正から昭和にかけて多くの作品を残した、わが国におけるヴァイオリン製作の草分けである。教本も無く師匠も不在の時代にあって、独学でヴァイオリン製作の技術を習得したのにもかかわらず、彼の作り上げた楽器は、多くの著名な演奏家から高く評価された。当時来日したハイフェッツやクライスラー、フォイヤーマンなどが賞賛の言葉を残し、モギレフスキーは生涯を通して宮本の楽器を3本愛用している。

ヴァイオリン製作において宮本は、単に外国製品の模倣に終わることなく、常に自身の個性を生かすよう努めた。そのため彼の楽器には独自のスタイルが確立されている。のちに宮本はこの「個性への開眼」こそが、自分のヴァイオリン製作で最も重要な転機であったと述べているが、まさに山田耕筰の助言が実を結んだ瞬間であったといえよう。

写真の弦楽四重奏用セットは、宮本金八自身が最高傑作として生涯手放さなかったものである。この楽器を引き継いだ宮本敏彦、紀(とし)ご夫妻は、星城大学教授の武田洋平氏を通して、平成12年にこの貴重なセットを本学に寄贈した。このセットは厳選された同一の素材から作られており、本学ベートーヴェンホールでの受贈記念コンサートでは、4本の楽器の響きがみごとに融合し、満員の聴衆を魅了した。(武蔵野音楽大学楽器博物館所蔵)