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武蔵野音楽学園

畑 盛次 作  1846年(弘化3年) 日本  全長 192cm

 

すっきりとした外見の現代の箏とは対照的で、絢爛豪華な装飾で彩られた飾り箏は江戸時代中期以降に発達した。このような美しい装飾が施された日本の楽器は、一般的に美術館などで「美術工芸」として扱われていることが多い。そこで今回は楽器の装飾に焦点をあてて、この写真の楽器の魅力に迫りたいと思う。

先ず一番目をひくのは、楽器の両側面に施された草花の金蒔絵であろうか。紫檀材を薄く貼った上に、松・梅・土筆・蕨・れんげ・たんぽぽ・すみれ・百合・牡丹・葦・藤袴・菊・すすき・女郎花・萩・桔梗・南天・水仙という18種類の草花が春夏秋冬の順番で描かれている。附属の象牙製箏柱にも同じく四季の草花や生き物が描かれている。

箏頭部側面の龍(りゅう)舌(ぜつ)の周りは源氏香の紋様で縁どられて、洗練された格調高さを漂わせている。源氏香とは江戸時代初期に完成した優雅な香文化のひとつで、何種類かの香木を組み合わせてその異同を競い合う組香の一種である。源氏香の場合、5種類の香木の異同を競い、5本の縦線に同香のもの同士を横線で結ぶ。全部で52通りになるこの組み合わせには、源氏物語54帖のうち巻頭「桐壺」と巻末「夢浮橋」を除いた52帖全てが結びついており、各々の記号には巻名がつけられている。この香文化が生んだ縦と横だけで表した記号紋様は、意匠のもつ単純性と抽象性が日本人の嗜好と合い、また古典文学と結びついているという奥深さの点でも好まれたのであろう。江戸中期以降庶民に広く愛され、和菓子や着物の図柄、浮世絵、建築、工芸など様々な分野の作品に取り入れられている紋様なのである。

また、頭部上面の玉(たま)戸(ど)周囲は、象牙象嵌・木画技法の細緻な八段飾りが施され、中央には彫金で玉取り龍がつけられている。さらに箏の尾部にはべっ甲の上に横笛を吹く奏楽飛天が描かれている。日本人の美的感性と江戸職人の匠の技が凝縮されている誠に贅をつくした名品である。(武蔵野音楽大学楽器博物館所蔵