クラヴィコード

クラヴィコード
製作者不詳 18世紀 南ヨーロッパ 53鍵 幅116cm

クラヴィコードは13〜14世紀頃、音律研究用の発音具、1弦ツィターのモノコードに打弦鍵盤を取り付けて誕生した。その後、和音を奏する目的で弦数は徐々に増加していったが、同時に奏する可能性のない鍵盤は弦を共有する、フレット式が長く採用されていた。写真の楽器も、隣接する幹音と派生音は同一弦で奏するフレット式で、cとcisやfとfis などを同時に打鍵とすると、高い方の音のみが発音する。

打弦構造は極めて単純で、先端にタンジェントとよばれる真鍮の棒を差し込んだ鍵盤を押下して、タンジェントを弦に触れさせるだけのものである。このため、ピアノと同様の感覚で鍵盤を奏すると、弦に力が加わりすぎて音程が揺れ動いてしまう。したがって、クラヴィコードにおける打弦とは、鍵盤を軽く押さえることを意味し、発音後は指を動かさないという、極めて繊細な奏法が要求される。また、音量は極めて微小であるため、楽器とはいえクラヴィコードは、多くの人に聞かせる演奏会用のものでなく、静かな室内で家族や友人と数人で楽しむ、家庭的な楽器ということができる。

C.P.E.バッハは、打鍵後に音程を変えることができるクラヴィコードの機構を利用して、自分の作品にベーブング(ヴィヴラート)を指定し、この楽器の可能性を限りなく引き出した作曲家として知られている。(武蔵野音楽大学楽器博物館所蔵)