磬(けい)

磬は、仏教伝来とともに日本に伝えられた法具であり、その祖形は古く古代中国まで遡ることができる。「磬」という漢字は、「石」と「殸」組み合わせて作られたもので、「殳」には打つという意味があることから、「打ち鳴らす石製の楽器」を表している。「磬」という字源に表されている通り、中国の磬は、元来石製もしくは玉製であった。中国には古くから、楽器の素材によって「金(金属)・石・竹・土・革・糸・木・匏」の8つに分ける独自の楽器分類法「八音(はちおん)」があり、この中でも磬は金部ではなく石部に属されている。

日本では銅製(鉄製の少数例もある)が一般的で鋳造である。初期の頃には片面のみに装飾を施した片面磬も見られたが、次第により華やかな両面磬が作られるようになった。桴で打つために模られた中央部の撞座(つきざ)およびその左右には、仏教と縁の深い蓮をモチーフとした蓮華文や蓮唐草文、蓮池文の他、宝塔文、孔雀文、鳳凰文など様々な装飾例が見られる。

写真の楽器は、幕末から明治にかけて活躍した金工師、秦蔵六(1823~1890)の長男で、2代目(1854~1932)の作である。現行では一般的な連弧式山形を成しており、両面に葡萄唐草文が施されている。初代蔵六は、孝明天皇の銅印、徳川慶喜の征夷大将軍の金印の鋳造を手がけたことでも知られる。2代目蔵六は、初代の作風を受け継ぎ、明治6年(1874年)には、宮内省の命を受けて、初代とともに明治天皇の御璽(ぎょじ)・国璽(こくじ)を鋳造した。この国璽は、3寸方形の金印で「大日本国璽」の5文字が刻されており、現在も勲記に用いられているものである。「蔵六」の名と鋳造技法は代々継承され、今日に至っている。(武蔵野音楽大学楽器博物館所蔵)

磬(けい)
2代目 秦蔵六 作 日本 高さ75cm