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テレビ朝日系の朝の報道情報番組『グッド!モーニング』―年間平均視聴率が同放送時間帯でトップ(2025年調べ)を誇る人気番組の総合司会を務めるのが、福井学長の大学時代の同期生で同局アナウンサーの坪井直樹さんです。高校・大学時代にはオーケストラでヴァイオリンを弾き、現在も多くのクラシックコンサートで司会を務める坪井さんと福井学長との対談は、アナウンサーと演奏家の共通性をあぶり出し、それぞれに必要なスキルを再確認するような充実の内容になりました。同期生ならではのフレンドリーかつウイットに富んだスペシャルトークを存分にお楽しみください(2026年6月6日実施)。

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    アナウンサーと演奏家の共通性

    福井 30年以上の経験も踏まえ、アナウンサーに求められる能力について教えてください。

    坪井 まず基本は言葉を正確に話すこと。例えばニュースで“事件”なのか“事故”なのかを正確にチェックする。視聴者からするとどちらも「大変なことだな」っていう位の捉え方かもしれないけど、報じる側にとってはこの2つは全く違う。例えば、交通事故は“事故”で終わることが多いが、運転手が逃げたとか、飲酒していたとか。そうなると事故から“事件”になる。警察の捜査が始まり「容疑者逮捕」を前提に取材も継続するので大きなニュースになっていく可能性が出てくる。他には“疑惑”と“問題”。これも混同して報じると大変なことになる。ある人に疑惑が浮上したとき、本当にそうなのかはまだ分からない。だから我々も取材をして本当だったと裏付けができた時点で疑惑から“問題”に替えて報道を開始し責任を追及する。でも、疑惑の段階でいきなり“問題”と報じてしまうと、実際違った場合にその人の名誉を棄損することになる。本人が「あなた達は疑惑ではなく“問題”と報じていたじゃないか。そのせいでいろいろな損害を被った」と名誉棄損で裁判を起こせば、テレビ朝日の責任問題にも繋がる。言葉の使い方で誰かを傷つけやしないか、そういうシビアな言葉遣いを私たちアナウンサーは日ごろから気を付けています。

    現在、人気番組『グッド!モーニング』の総合司会を務める(2026年6月)

    福井 以前、ブログで「ニュース原稿が間違えていて困った」って。

    坪井 原稿を書く人たちも完璧ではないから。最終的なチェック・修正をするっていう役割と責任は、言葉のプロである我々にある。

    福井 原稿の表面的な文字だけでなく、背景や文脈を深く理解して伝えていく。教養や取材力が必要ですね。

    坪井 そう。当然ニュースの内容も理解していなきゃいけない。昨日と今日で「何が進んでいるのか」っていうのも頭に入れなきゃいけない。

    福井 原稿の背景理解は、演奏家にとっての楽譜の深い読み込みに通じますね。華やかなパフォーマンスの裏には地道な事前準備が必要ということでしょう。放送中に「この原稿は大丈夫かな?」っていうのもあるってこと?

    坪井 正直、あるね。これは現場を責められない部分もあって。若い記者が増えていたり、早朝の時間帯って現場の人数も昼間と比べ落ちてしまうので、チェック機能が十分とは言えない。

    福井 明らかに誤りのテロップもたくさんあるし、あとはセンスが無いのもね。よく画面に向かってツッコんでます(笑)。あっ、『グッド!モーニング』の話ではないですよ(笑)。

    坪井 でも今言ってくれたみたいに、視聴者からの反応で我々も成長できるというか。勝手なクレームもあるんだけど、中には「ああ、そう感じる人もいるのか」っていう貴重な意見もあって。減税増税話や中東情勢でも社会的弱者からの意見など異なる立場からの感じ方や指摘を得られることは、今の私の番組にとっては多様な視点の獲得と公平性の確保という点で、すごく有難いことなんです。

    福井 取材対象者や視聴者の人権擁護、不祥事の防止に繋がりますよね。ひいては報道機関としての信頼に直結する。

    坪井 ぜひ気付いたら放送中でもいいので、「ここ間違ったんじゃない⁉」とか「ここはどういうこと?」みたいに、どんどんLINEで送って(笑)。そうすればすぐにフィードバックできますので。

    福井 単純な言葉の言い間違いに対するご指摘は?

    坪井 失敗したことは多々あります。随分前に「何気に」って放送で言ったら、「そんな日本語はない!」とお叱りを受けました(笑)。あと最近はジェンダーに関する言葉遣いが、非常に難しくなっていて。

    福井 “女優”って言わないとかってこと?

    坪井 “女優”はもう使わず男女とも俳優という。“主演女優賞”はそのままなのに。キャッチャーに対する“女房役”ももう駄目。あとは「雌雄を決する」。選挙でも使われているけど、雌=メス、雄=オス。男の方が強いから、勝った方が男で負けた方が女だっていう前提の表現になってしまう。ビジネスマンもビジネスパーソンだし、コメディアンも女性の場合はコメディエンヌって言う。なかなか難しい時代に入っていますね。

    福井 社会の多様性や人権意識の変化そのものを映し出しているのだろうけど、一方で、例えば文学作品や歴史的な番組の表現にまで過度な自主規制がかかってしまうケースも議論されていますよね。いずれにせよ、コンプライアンスや視聴者の価値観の変化に合わせて言い換えが進んでいるのでしょうね。

    坪井 ただ、やっぱり若いアナウンサーはそういった機微が全く分からないので、一つ一つ丁寧に教えていくのが私たちベテランの役目。

    福井 分からない人には「もうこれで」って正解だけ教えればいいとは思わない?

    坪井 それが一番簡単だけど、やはり音楽と一緒で言葉も歴史があるし、私たちの生活から生まれてきたものだからね。例えば私は“さようなら”っていう言葉の由来を新人に教える。「左様(さよう)ならば、またお会いしましょうね」って相手を気遣う気持ちからきていると。当たり前に使っている言葉にも成り立ちがあり当時の人々の暮らしがあることを、少しでも頭の中に入れておいて欲しいなと。

    福井 物事の理由を考えることは、問題の本質を見抜く重要なプロセスだよね。同様に当たり前を疑うこともね。自分自身の思い込み、バイアスも含め。だから、これからも何事も疑ってかかるイヤな視聴者でいようかと(笑)。

    坪井 ハハハ。毎日はLINEはしてこなくていいので(笑)。「これは⁉」って時だけご教示いただいて。あと、いいこと!いいことって意外と褒められないから、どんどん褒めてほしい(笑)。

    福井 では…『グッド!モーニング』は、シリアスな報道とエンタメ・気象などのソフトな情報のバランスが絶妙な構成ですね。時間帯ナンバーワンの視聴率の理由はそれかと。

    坪井 さすが、よくわかっていらっしゃる(笑)。実は我々アナウンサーと演奏家には共通点があると以前から思っていて。文字って記号じゃない?楽譜もやっぱり記号じゃない?実際に喋って、あるいは実際に音にして初めて人の心に届く。作曲家の書いた楽譜と聴衆の間に存在するのが演奏家だとすると、記者やカメラマンが作った原稿、映像を視聴者に届けるための橋渡しをするのがアナウンサーの仕事だから。人に響くアナウンスのために、演奏家の人たちと同じような能力が必要じゃないかっていうのを、私はいつも思っています。音楽をやってきたからね。

    福井 両者とも、単に原稿を読む、楽譜を音にするだけでなく、そこに感情や文脈を乗せて聴き手の感情や思考を動かすことを本質とする「表現者」ですよね。日常的な基礎練習や綿密な準備のもと、ニュースの内容、あるいは作曲家の意図を汲み取り、発声・発音、スピードや間合い、抑揚の変化などで伝え方を変える。生放送やコンサートなど、やり直しがきかない緊張状態の中での強靭なメンタルが求められる点でも共通しています。私はアナウンサーをやっていませんが(笑)。

    ベルリン・フィル土屋邦雄氏との出会い

    福井 小澤征爾氏が、名著『ボクの音楽武者修行』の中で「ぼくたちはハメをはずして遊んだ」と触れている氏のベルリン時代の友人が、土屋邦雄さん(ヴィオラ奏者。日本人初のベルリン・フィル団員)と私の父の福井直敬。私が小さい頃、土屋さんが来日し我が家を訪問した時は、当時はドイツで珍しかったからか、いつもお土産にカップラーメンをコンビニまで買いに行ってました。

    坪井 私の人生で大事な出会いの3人を挙げるなら久米さんと黒柳さんと、もう一人、土屋邦雄さん。大学ワグネルでベルリンへ演奏旅行にいった時に、ベルリン・フィルを聴きたいけどお金もチケットもなかったので、楽屋口で土屋さんを張って全く面識もないのに「日本から聴きに来ました」っていきなり無謀にも声をかけたら、「おー、じゃあちょっと待ってろ」って、結局その日も次の日もベルリン・フィルを聴かせてもらった上に、ご飯にも連れていってくれて。私がアナウンサーになってからも土屋さんが来日した時にはよく渋谷の小料理屋に飲みに連れて行ってくれました。その後長らくご無沙汰してしまったので2019年かな、土屋さんがコンサートで指揮するというのを耳にして三鷹のホールに聴きに行ったんですよ。それで楽屋に突然行ったらもう凄く喜んで「ちょっとこれ見ろ」って。何かと思ったら私が出てるテレビの画面をカメラで撮った写真の数々。東京に来た時にはホテルで毎朝撮って、それをずっとカバンの中に入れているんだぞ!って。

    日本人初のベルリン・フィル団員、土屋邦雄氏(ヴィオラ奏者)と渋谷で再会(1995年1月)

    福井 え、プリントアウトして?

    坪井 そう。もう涙があふれて止まらなかった。

    福井 それは感激だよね。逆に土屋さんがもしご存命で、我々のこの対談を読んでくれたら、きっと泣いて下さるね。

    坪井アナが総合司会を務める『グッド!モーニング』中の人気気象予報士 依田司さんによる中継も実現(6月24日)

    生放送での対応力

    福井 番組内での最大の失敗は?

    坪井 これは私のせいじゃないんだけど、今も続いてる『スーパーJチャンネル』という夕方のニュース番組のキャスターをやっていた時に、用意していた15分間のVTRが出なかったことがあった。「鮎あゆ釣り解禁」っていう特集でね、今思えば鮎釣りでよく15分も作ったなって思うけど(笑)これを流す予定だったのに、私が「VTRどうぞ!」って言っても映像が出ない。とっさに目の前のスタッフを見たんだけど、そのスタッフは横向いて私から目を逸らすのよ(笑)。その瞬間に「あ、これは何か不手際が起きたな」って。「じゃあ、ちょっと繋がなきゃ」と思って、仕方なく「釣りは皆さんいかがですかぁ?」って感じで繋ぎ始めた。ところが1分、2分、5分経っても全然ダメで、結局15分間!私のワンショットで埋めることに。たまたま昔、父と鮎を釣りに行ったことがあったのでその経験をもう100倍に膨らまして、あとはひたすら謝りながら(汗)。

    福井 自分のミスではないのに必死なところが、視聴者の感動を呼んだんじゃない(笑)?

    坪井 入社5年目くらいだったけど、落ち込んだわ。でもその翌日、読売新聞にそれを見ていた人から「アナウンサーの真髄を見た」という内容の投稿が載っていた。

    福井 朝日新聞(テレビ朝日のグループ企業)ではなく、読売新聞に(笑)。

    坪井 地獄の15分間だったけども「よく頑張ったな」って褒めてくれる人がいるんだっていうことがとても救いだった。

    福井 先ほど触れた突発的な状況における対応力ですね。あれ?失敗談きいたのに、本当に感動話になってるし(笑)。

    坪井 あはは。本当にやらかしたのは、『ニュースステーション』で、当時ケガで入院していたヤクルトの古田敦也選手が「退院」するっていうニュースを伝える時に、「古田選手が引退しました!」って言ってしまった。

    福井 自分で言い間違ったのは気づいてない?

    坪井 横にいた久米さんが私の手をガシッと掴んで、違うって合図してくれた。当時人気絶頂のスター選手を「引退です」と爽やかに全国放送で言っちゃって。翌日に古田さん御本人のところに謝りに行きました。

    福井 ご存知だった?

    坪井 「引退さすなよ!」って笑いながら怒られました。

    福井 最後失敗談で終わるのもなんなので(笑)、学生にメッセージをお願いします。

    坪井 思えば今の自分を作ったのは間違いなく学生時代です。好きなものに好きなだけ時間を使い、腕を磨き、知識を蓄え、仲間を作り、恩師を作り、海外に出て国を知り、文化を知り、人を知る。失敗もできるしやり直しもできる。こんな時間は社会に出てからはありません。今のうちに10年後、20年後、50年後の自分に繋がる「一生モノ」を1つでも多く見つけて人生を豊かにしてください。今回ここを訪ねて、それが可能な場所に皆さんは今通っていると強く感じました。私も来世はここ武蔵野音楽大学に通おうと思います。

    坪井直樹の写真

    坪井 直樹 (Naoki TSUBOI)

    1969年東京都出身。慶應義塾大学卒業。1993年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。「ニュースステーション」「ステーションEYE」等でスポーツコーナーを担当。その後キャスターとして「スーパーJチャンネル」「ANNニュース」等報道番組を主に担当し、現在は「グッド!モーニング」(月〜金)のメインキャスターとしてニュース・スポーツ・エンターテインメント・生活情報など幅広いジャンルの進行を務めるほか、BS朝日「人生、歌がある」の司会等、多くの番組で活躍。これまで「徹子の部屋コンサート」のほか各コンサートや音楽祭などの司会を数多く務める。

    福井直昭の写真

    福井 直昭 (Naoaki FUKUI)

    1970年東京都出身。慶應義塾大学卒業、武蔵野音楽大学大学院修了、ミュンヘン音楽大学留学。国内外で20を超えるオーケストラと協演し、クロイツァー賞、ブルガリア国際コンクール「MusicandEarth」全部門グランプリ、ハンガリージュール市記念シルバーメダル、下總皖一音楽賞等受賞。現在、武蔵野音楽大学理事長・学長、教授のほか、日本私立大学協会常務理事、全日本音楽教育研究会会長、文科省大学設置分科会特別委員等を務め、音楽文化を教育・研鑽する大学の長として、音楽の枠に留まらない発信を常にし続けている。

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