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武蔵野音楽学園

クルース

クルース セント・ジョージ作 1912年頃 イギリス 全長58cm

クルースは弓奏の竪琴ともいえる楽器で、中世から19世紀前半までイギリスのアイルランドやウェールズ地方などで使われた。奏者は楽器を腿に挟み、左手で指板を押さえながら右手の弓で演奏する。張られた6本の弦は、基本的に同時に演奏される。この楽器の祖形は古代の竪琴にまで遡ることから、一時期、このクルースがヴァイオリンのような弓奏楽器の祖先ではないかと考えられ、その提唱から「最も古い弓奏楽器は何か」という論議が交わされることになった。

1830年代に、ベルギーの音楽学者フェティスは、クルースの両側のわく木を取り、中央の指板が残ることでヴァイオリン型の楽器が誕生したと述べた。しかし賛否両論の中、1856年、フェティスはそれまでの説を改め、クルースは後発の楽器であり、紀元前3000年にインドで使われていた楽器が最古の弓奏楽器であると主張を転換した。この考えは19世紀を通しての通説となり、「楽器学の父」として高名なドイツのザックスも、当初はフェティスの意見に同調している。しかしザックスは1940年にその考えを撤回し、最初の弓奏楽器は、9世紀ごろの中央アジアに出現したと主張した。この説を裏付けるかのように、1966年にドイツの音楽学者バッハマンは、多くの図像資料から弓奏楽器は8世紀以前には存在しなかったことを証明し、現在はその説が広く受け入れられている。

このように最古の弓奏楽器をめぐる研究は、多くの学者により様々な説が唱えられてきた。そして唱えられた学説は、時には提唱した本人により撤回されている。ここには学問追求の自由な討議の姿が映し出されている。クルースに端を発したヨーロッパの楽壇での論争から、私たちは自由闊達な学問論議のあり方を学ぶことができるのである。(武蔵野音楽大学楽器博物館所蔵)