笙  銘 節摺

笙  銘 節摺
平安後期~鎌倉時代 日本 全長54cm

この笙の持つ「節摺」という銘は、竹管の節が平らに削られているその外見上の特徴に由来している。箏製作家であり邦楽研究家でもあった故水野佐平氏寄贈の「水野コレクション」の中でも、最古の楽器としてこれまで知られてきた。この楽器については、「MUSASHINO for TOMORROW No.20」ですでに紹介したが、この度、附属文書を含む資料の詳細な調査によって、来歴などが明らかとなった。

調査の結果、この楽器は、代々楽人である林家に受け継がれてきた名器であり、天明元年(1781年)、仙台藩伊達家に譲渡されたものであることが判明した。明治期に記された伊達家宝物を記した目録には、楽器の項目の筆頭に「節摺」の名が記載されており、伊達家においても、宝物として「節摺」が大切にされてきたことが窺える。

附属の箱は、譲渡された際に、伊達家において製作されたものと考えられる。蓋の見返し部分には竹の金蒔絵が施されていて、2種の作銘が入れられている。これはそれぞれ、下絵を施した狩野栄(えい)川(せん)院典(みち)信(のぶ)(10代将軍家治に寵遇された幕府奥絵師)、蒔絵を施した中西松(しょう)立(りゅう)斎(さい)達(さと)栄(ひで)(仙台藩お抱えの蒔絵師)を示すもので、歴史的工芸品として価値の高いものである。

また、笙の匏(ほう)部分に施された竹の金蒔絵は、京都の印籠蒔絵師・塩見政(まさ)誠(なり)によるものであり、さらに、匏上面に入れられた銘は、伏見宮邦永親王によって書かれたものと、名器と言われるに相応しい格調高さが感じられる逸品である。

なお、水野氏自身、特に思い入れの深いコレクションのひとつとして、この「節摺」を回想録の中で紹介している。(水野コレクション・武蔵野音楽大学楽器博物館所蔵)