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武蔵野音楽学園

ポシェット

薗田 治子

17世紀 フランス 全長46cm

ポシェットは、16世紀から19世紀にかけて使われた小型のヴァイオリンで、この名称は、奏者がポケットに入れて持ち運んだことに由来するといわれる。通常4弦だが3弦のものも見られ、一般的にヴァイオリンよりも4度ないし5度高いピッチで調弦された。また3弦のものは1オクターヴ高く調弦されることもあった。この楽器は、ヨーロッパ各地で様々な階層の人々に使われたが、特にフランスにおいては、宮廷舞踊の教師がダンスのレッスンに使用したことで知られる。

バロック様式と宮廷文化が栄華を極めた17~18世紀のフランスでは、王侯貴族の社交の場である舞踏会(グラン・バル)が数多く開催された。そこではバロック・ダンスが高貴で優美な舞踊として好まれ、貴族の子女はこぞってダンスを学び、華やかな社交界へのデビューを夢見た。このレッスンにおいて、ダンス教師は自ら演奏するポシェットを伴奏に、ステップや振り付けの指導を行なったのである。したがって、ダンス教師にはヴァイオリン演奏の技術が要求され、同時にダンス音楽を作曲できる作曲家としての能力も求められた。
 
絢爛豪華な宮廷で使われたポシェットは、自然に象牙や宝石で飾られ、贅をこらしたものが好まれていく。写真の楽器も、黒檀材の一木造り、ヘッドに彫刻された女性の顔などに、高級嗜好品としての趣が感じられる。ダンス教師にとって美しいポシェットを所有していることはステイタスであった。しかし、やがて宮廷文化の凋落と共に、ポシェットは次第に使われなくなっていく。レオポルド・モーツァルトは、1756年に『ヴァイオリン奏法』の中でこの楽器を紹介し、「すでに廃れてしまった」と記述している。(武蔵野音楽大学楽器博物館所蔵)